実践FP&A講座:本当にそのポジションを採用するべきか

履歴書とミニチュアの人間と黒いペン

FP&Aをやっていると、担当している事業についての人件費およびヘッドカウント(人員数)の管理も役割として担うことが殆どです。

即ち、人の「採用」に関しても判断が求められるようになります。ただし、経理財務が組織の中で力を持っていないと、その意思決定に関わらないこともあります。パワーがあって人の採用についても判断できる場合においても、「HR(人事ですね)」との共同作業は不可欠と言えます。ほんとに蛇足ですが、当然ながら数字化できない要素が人の採用には大きくかかわってくるからです。

そんな中でも、人の採用をする・しない、に関して経理財務がファイナンス的視点でレビューする場合に確認すべきポイントを記します。

 

1)予算で賄えるか?

  • たとえば外資系ですと、日本法人においてはPLの人件費だけではなく、人員数(ヘッドカウント)も予算化されていることが多いです。すなわち、今年組んでいる予算以上の人件費が出ないか、人員数は予算範囲内に収まるか?という視点で見る必要があります。
  • 当然、社員は一定の率で辞めていきますから、採るべき時に採るべき人材を取る判断が必要になります。ですが、採る採らないにかかわらず「予算上どうなるか?」は最終意思決定者に情報としてインプットしておく必要があるでしょう。

 

2)事業全体における人件費割合は上がらないか?

  • PLを管理する立場であれば、見ておきたいのは、この採用によって売上に対する人件費率が上がらないか、ということでしょう。それなりの規模の事業をしていれば、社員1名分くらいの採用で何か、ということはないでしょうが、高給の偉い人を採用すると影響がないか念のため確認しておくことは必要です。
  • ここを見てないと、PLを管理するFP&Aとして何やっとんのだ、という話になりかねません)

 

3)なぜ、そのポジションが必要か?

  • よくあるのが、「退職者に伴って補填したい」があると思います。何も考えないのはダメです。もし貴方がFP&Aの担当者で、採用について審議や承認する立場であるならば、そのポジションがどういった職務を担うのか把握してくべきでしょう。
  • 例えば:事業を行う上での専門スキルを持つ人間が社内にいない、またはいなくなる場合であれば採用可としたいところですね。ただしその場合は外注化した場合との比較をしてもいいかもしれません。例えばタックスの専門家を採用する場合、外部の税理士で足りるのではないか?といった具体です。
  • コンプライアンスを満たすための要件であれば採用せざるを得ないという判断が働きます。例えば医療医薬系や建設・製造、運輸など事業を行う上で特定の専門家が必要な場合、障害者の方の法定雇用率を満たすためであれば、その採用は必要でしょう(罰金払えば採用しなくてもいいのですが会社姿勢が問われますね)。
  • では「新卒」の妥当な採用人数はどう考えれば良いでしょうか?また、そもそも「新卒」は取るべきか?という論点もあると思います。これはかなり難しいです。今私のいる組織では、毎年一定数の退職者が出て、かつすぐに採用が決まらない環境であるため新卒を一定数入れて育てようというロジックになっていますが、果たしてそれが「正」であるかは難しいところです。会社の文化を創る、若い人に後輩が入る、フレッシュな人材で組織に元気が出る、といった副産物もありますので、そのあたりは事業リーダーと人事と深く議論して決めておきたい事柄ですね。

 

4)採用によるリターンは何か?

  • これは営業や事業開発の人員を採用する場合にはわかりやすい質問ですが、経理財務や管理部門側は自らの首を絞めかねない質問です。すなわち、その採用によって会社が得られるリターンは何か。 
  • 即ち「いくら売上が上がるのか?」「いくら経費が下がるのか?」「どの業務がどのように良くなるのか?KPIは」といったたぐいの質問になります。

 

5)Span Of Controlはどうか

  •  その採用によって組織図がどうなるのか?も確認しておきたいポイントです。Span Of Controlは適切なバランスであるのか?

 

6)採用を行う部署の稼働時間(=残業時間の発生状況)はどうか

  • ちょっと意地悪な確認になりますが、Replaceを採用しないでも業務を回せないのか?という質問になります。中々その部門の人的リソースの必要ボリュームを外から理解するのは難しいですが、残業の発生状況や成果物、当該部門の目標とするKPIに対する実績の進捗などを見て、ある程度確認することができます。
  • データで議論しないと、人間関係は悪化します。「どうせそんなに忙しくないんでしょ?」や「あなたの部署にそんなにコストはかけられません」といったコミュニケーションは、正しいとしても気を付けて伝えることをお勧めします。

 

7)カルチャーマッチやビジョンへの共感

  • これはファイナンス領域ではないかもしれませんが、FP&Aという職務はどう経営を成功して、企業価値を高めていくか、につきますので、当然人材は重要な経営資源になります。もし機会があるのであれば、その人は組織にとって本当に採用すべきか?という踏み込んだ議論ができると良いと思います。
  • そうは言っても「人を視る目」は人事がプロフェッショナルですから、共同しながら確認作業を進めていくのがより実務的です。