MRRではなくMonthly Recurring Profitのコンセプトを考えてみた

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サブスクやSAASビジネス界隈では、重要な経営指標としてMRRが使われますよね。

 

MRRについてはこちら:英文ファイナンス用語:MRR - Society 5.0時代の経理財務~テクノロジーの活用と英語力~

 

 

この指標なのですが、トップライン(すなわち売上ですね)の成長に主眼を置いたもので、グロースが求められるスタートアップやベンチャーにおいては大変有効な指標だと思います。

 

一方で、大企業になってくると売上成長だけでは社内で議論が進まないことが多々あります。特に上場している大企業では、良くも悪くも「今年の利益」により焦点が当たるので、MRRで売上だけ見てもゴーサインがでないのです。

その結果、サブスクで必要な先行投資が行えず、この事業を成長させることができないというジレンマに陥ります。

 

経営トップがやるんだー!と鶴の一声で動かせることもありますが、大きな企業では利益目標や投資基準などが既に構築されており、それらを「経営トップが無視」するのか「サブスク用のあらたな基準」をつくるのか、などの手を打たないとがんじがらめで身動きができません。

 

また、単年度の業績評価もありますから、先行投資が必要な事業モデルに対しては慎重にならざるを得ない経営環境もあります。

 

スタートアップであれば

「資金調達して、そのお金でテレビコマーシャルなどメディア媒体にガンガン投資して、とりあえず売上を成長させてマーケットリーダーになり、あとで回収しますね!」

というストーリーが成り立ちますが、既に既存事業で大きくなっている大企業では、この先行投資についてどうしても慎重になりがちです。

 

そのため、売上の指標であるMRRで議論をリードするのが困難なので、Profitに焦点を当てたMRP (Monthly Recurring Profit)のコンセプトを考えてみました。(実際に企業内実務で導入中)

 

その事業の価値自体を語るのであれば、NPVやLTVで評価すれば良いのですが、日本企業においては横文字がNGであったり、ファイナンスリテラシーについて訓練されていない人たちと議論をする場面は多々ありますので、それならいっそのこと、「これくらい毎月利益がでますよ!」とシンプルに説明した方が良いことがあります。

このMRPのコンセプトはそういった環境下で実に使えるモデルだと考えています。

 

では具体的にどのようなモデルなのか?ですが、MRRから直接費用を引いた利益を算出し、それを毎月の利益(Profit)として捉えます。

間接費用などを含めていないのは、計画のスピードアップのためと、モデルを単純化するためです。計算を細かくしようと思えばいくらでもできるのですが、このモデルでは詳細すぎる設計は採用しません。

どのみち「計画」は必ずズレますので、そこに時間をかけるよりも、「実行」してPDCAを素早く回す方が余程重要だと考えるからです。大企業だと得てして細かい数字が求められることがありますので、現在の組織カルチャーを鑑みて、計画数値を分解していくことはオーダーメードで必要になるかとは思います。ただし慎重に。細かい計画よりも実行が大事です。

 

それではモデルの中身と使い方を紹介していきます。

 

目次 

 

 

 

1. MRPの計算方法

まず、前提条件を置きます黄色が変数です。

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受注当たりコスト(CPA)について受注当たりの広告費用(Cost Per Acquisition)は実績値があればベターですが、なければ業界平均などをベンチマークして採用してください。

参考例)Google Ads Benchmarks for YOUR Industry [Updated!] | WordStream

解約率(Churn Rate)について

解約率も同じく実績値がなければベンチマークを利用して下さい。なお解約率は年度毎、ひと月毎など期間によって数字が違いますので利用する際は注意してください。本記事では月次の解約率を使用しています。すなわち「月初にいたお客の何%が離脱するか」ですね。

参考例)https://tm999.hatenablog.com/entry/2021/01/14/195329

 

 

これら前提条件を元に月次の利益を計算していきます。

3か月ごとに10万円の広告を打つシナリオだと、開始後1年間で65,685円の利益が見込めることがわかりました。

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この表で言う「粗利」と「利益(単月)」

いずれをMRP:Monthly Recurring Profitの指標として用いるべきか?には議論があると思います。

粗利をMRPとする場合、広告投資の月の利益の歪みが除かれますので、事業運営の結果、売上と粗利が伸びているのか?を判別しやすくなります。一方で直接的な費用(広告投資etc)でさえも含めていないので、そのビジネス本来の「利益」としてみてしまうと判断をミスリードするリスクがあります。

 

利益をMRPとする場合は、粗利をMRPとした場合の逆のメリットとデメリットがあります。また、大企業においては冒頭に書いたとおり、全てのコストを含めた「利益」で議論しないと物事が前に進まないケースが多々ありますので、この表で言う「利益」の方をMRPとして利用する方がすんなり行くことが多いと思われます。

 

2. MRPを意思決定に使う

次に、この情報をどのように活用すればよいでしょうか。

サブスクは先行投資が必要となるため、先行投資型ではない投資と比較した場合、単年度の業績では間違いなく不利になりますので、それらを正しく比較して、正しく判断する場合にこのモデルが使えます。

例をとって見ていきましょう。

(A)サブスク商品 と(B)売り切り商品 を比較していきます。

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さて、どちらが優れた投資に見えるでしょうか?

粗利(=原価率)は同じ条件ですので、販売単価が高くてCPAの低い「(B)売り切り」の方が優れた商品に見えないでしょうか?それを確かめるために、1年間同じように3か月ごとに10万円の広告を打つシナリオで比較してみた試算がこちらです。

(A)サブスク商品

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(B)売り切り商品

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(A)サブスク商品は年間で65,685円の利益。

(B)売り切り商品は年間で80,000円の利益。

 

最初の1年だけ見ると(B)に軍配が上がりました。

次に、2年目も同じように3カ月毎に10万円の広告投資を行うケースを、2年間の合計値も含めて見てみると・・

(A)サブスク商品

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(B)売り切り商品

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(B)は売り切りなので、1年目も2年目も同じ売上・利益になりますが、(A)は1年目からの積み上げがあるため2年目はより高い売上・利益を示す結果となりました。

2年間の累計でみると、実に(A)の方が(B)の倍以上の利益を生み出すことになります。

 

このように、単年度の業績で考えると(B)売り切り商品の方を選択しがち(単年度の業績に強いコミットメントを強いられる大企業ほど、そのように選択したくなる)ですが、企業価値の増大で考えると、この場合(A)サブスク商品を選択する方がより正しい決断と言えるでしょう。

この判断軸については、将来のどの時点を評価対象にするか?によって答えが違ってきますが、少なくともサブスク商品のライフサイクルを見極めて評価を比較する期間を定めることがとっても大事です!